人事部長 18. 上に立つのが嫌 ⑸ 宗教

もう一つヒアリングで忘れられない思い出は「宗教」に対することです。課長職にある男性社員から『妻が新興宗教にのめり込み、自宅の庭で仏壇を壊して焼こうとしたのです。それを見て母は大きな声を上げ「やめて!」と泣き叫びました。この一件以来母と妻は一触即発の状態となっています。どうすればよいでしょうか』という驚くような相談でした。この件について社長にも相談されたましたが、社長からは「下裏先生に相談してみなさい」と言われたとのことでした。

このような相談は初めてでしたので、一瞬気が引けてしまいました。しかし無下に相談を断るわけにはいかず、細かい話を聞くことにしました。この課長はお母さんを守るか、妻を守るかの、二者択一で悩んでみえました。

話を聞くだけでよいのかと悩みましたが、私の思いを語りました。『先祖伝来守って来られたお母様の心境はよく分かります。奥様が新興宗教に入られた理由を考えると、これは中々難しい相談です。

しかしこの難局を乗り越えるには、貴方が家族を守ることを真剣に考えなければなりません。

お互いに多少の犠牲が出ることは覚悟しなければなりません。その犠牲を背負う覚悟こそ、貴方の最も重い役割です。改めて「貴方が守るべきものは何か、その覚悟を己に問いかけてみて下さい』と言いました。

そして1ヶ月後に訪問しますと、課長の顔に笑顔が見えました。「あれからどう?」と問いかけますと「先生とお話をして、やっと私の覚悟が決まりました。」との答えでした。この覚悟が難局を打破する道となったようです。

このヒアリングでは、思いもかけない相談をかけられることがあります。これは互いの信頼関係を測る物差しとして、決して逃げることなく対応して欲しいと願うばかりです。

                 続く

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