小説 墨壺

墨壺 ( 15 ) 木取り

「お父さん!お爺ちゃんが清助さんに何か?話をしているわ」「お母さん!今、お爺ちゃんが清助さんに話をしているのは、御大尽様の離れの建築が始まるから、その「木取り」についての話さ」 [良いか。清助!「木取り」は建物を建てる時の、一番大切な工程だ…

墨壺 ( 14 ) 棟梁の心得

「お母さん。さあ!これから墨壺夫婦が大活躍する時が来たよ」「お父さん!今回はどんな建物を建てるの?」「今回建てるのは古川の御大尽様の離れさ。この冬に材木を切り出しただろ。この家の材木だつたんだ。離れと言っても大きいよ」「お父さん!これから…

墨壺 ( 13 ) 田植え

「お父さん!田植えのシーズンを迎えましたね。天気予報も無い飛鳥の時代に、どの様にして田植えの時期を知ったの?不思議だわ」「お母さん!自然は素晴らしい気象予報士なんだ」「お父さん!自然が気象予報士?どんなこと?」 「お母さん!飛騨山脈の一つに…

墨壺 ( 12 ) 春祭り

まだ残雪が残る天生の里に春祭りの時が来ました。「お父さん!お祭りの準備が始まったわ。清助さんがお爺ちゃんに呼ばれているわ」「清助!お祭りの準備は、お前達若い衆でしろ。落ち度がない様にしっかりとしろよ。よいな」 「お母さん!このお祭りは五穀豊…

墨壺 ( 11 ) 仏教伝来

「お父さん。墨壺と仏教伝来とは関係が深いようね」「そうだよ。聖徳太子様が、仏教伝来に力を入れられたのは、大きな願いがあったからだよ。その願いとは、豊かな国造りなんだ」「なぜ仏教が入って来ると国が豊かになるの?私には解らないわ」「その一つが…

墨壺 ⑽ 筏流し

お正月が過ぎると、本格的に材木の切り出しが始まりました。「お父さん!この大きな材木はどの様にして運び出すの?」「お母さん!これから、この材木は、雪解け水を利用して、止利仏師が生まれた小鳥川から宮川、神通川を筏を組んで流すんだよ。令和の時代…

墨壺 ⑼ お正月

お正月がやって来ました。女衆は朝早くから、お雑煮やおせちの準備で、てんてこ舞い舞をしています。昨夜も沢山の雪が積もり、雪は降り続いています。男衆は、かんじきやバンバを使って、家の周りや道の雪掻きに大忙しです。 やっと、ひと段落すると、お爺ち…

墨壺 ⑻ 大晦日

段々と雪は深くなり、新しい年を迎える頃となりました。「お父さん!12月の末になったと思うけど、何故お正月が来ないの?」「お母さん!令和の時代は新暦と言って、12月31日が大晦日、1月1日が元旦なの。しかしこの飛鳥の時代は、旧暦で新暦の1月31日が大…

墨壺 ⑺ 藁細工

「お父さん!令和の時代は雪掻きなどは、長靴を履いて仕事をしたけど、今、何を履いて仕事をするの?」「お母さん!見ておいで。女衆が集まって来たよ!さあ!これから縄ないや履き物の草鞋やずんべづくりが始まるよ。」 女衆は、藁打ち石を据え、その上に藁…

墨壺 ⑹ 神棚

ある朝目を覚ますと、お爺ちゃんが清助さんに話をしています。 「おい!清助。俺が毎日、朝晩神棚にお詣りしているだろう。この神棚には、この村を守って下さる氏神様と山の神様が祀られている。お前はこの家の後継だ。毎日お詣りし、これから神棚の榊とお水…

墨壺 ⑸ 目立て

「お父さん。棟梁がお爺ちゃんから鋸の目の立て方を習っていますよ」「お母さん。この目立てを習うことは大工さんにとって、とても大切なことなの。鋸の切れ味が仕事に大きく影響し、切り口の良し悪しを決めるんだよ。だから鋸は定期的に目立てを行うんだ」 …

墨壺 ⑷ 木組み

「お父さん。昨日の話の木組み教えて!」「この木組みの技術は令和の時代で、世界でも注目されていて、それは凄い技術なんだ。お母さん。建物を建てる時、木材は半生の木を使うね」「そうね。木材を乾燥なんかさせていたら、間に合わないものね」「この半生…

墨壺 ⑶ 顔相

「お父さん。令和の時代の人から見ると、天生の人達の顔は彫りが深いわねぇ。どうしてかしら?」「本当に彫りが深いね。これは縄文人の名残が濃く残っているからだと思うよ」「お父さん。縄文人の名残りてなぁに?」 「令和の時代の大多数は弥生民族なんだよ…

墨壺 ⑵ 出会い

棟梁は飛騨河合村天生(あもう)の生まれで、大柄で背丈は6尺余りあり、誰もが一目置く存在でした。歳は今年35歳油が乗った働き盛りです。家族は元棟梁のお爺ちゃんとお婆ちゃん、お母さんと子供は15歳の長男を頭に男女5人の9人家族です。代々大工の家系…

墨壺 タイムスリップ ⑴ 天生

お父さんの名前は「墨吉」私の名前は「しず」です。「しず」に変わる前は「ナツ」でしたが、私は声が大きく、いつもお父さんから「もう少し小さな声で!」と注意されていました。そして新しくお父さんが付けた名前が「しず」です。名前は「しず」になりまし…