段々と雪は深くなり、新しい年を迎える頃となりました。「お父さん!12月の末になったと思うけど、何故お正月が来ないの?」「お母さん!令和の時代は新暦と言って、12月31日が大晦日、1月1日が元旦なの。しかしこの飛鳥の時代は、旧暦で新暦の1月31日が大晦日、2月1日が元旦なの」「それで今、お正月の準備が始まったのね。女衆が煮物をしたりして、ご馳走を作り始めたわ。さてどんなご馳走が出来るのかしら?楽しみだわ」
「お父さん!細い竹の子を煮てるわ」「これはね。姫竹と言って、笹から採れる竹の子だよ。5月頃に採って塩漬けにして置いたのさ。美味しいよ」「お父さん!あれは数の子ではない?」「そうだよ!数の子だよ。この頃は富山湾から、神通川・宮川を通って、数の子や干したニシンが入って来てたのさ」「凄いわね!」
「道路が整備される前は、川が物を運ぶ一番の運搬手段だったのさ。雪解け水が出ると、お爺ちゃん達が伐採した材木が、イカダに組まれて、宮川から神通川を下り、富山湾に運ばれるのさ。そして能登の海を越えて、飛鳥の都に運ばれるのさ」「お父さん!こんな時代に凄いことがされていたのね。驚いたわ!」
そんな話を、お父さんとしていると、女衆がぜんまいや椎茸・黒豆を煮たりと大忙しです。「お父さん!大根を刻んだ中に、干したニシンを入れているわ。何を作るの?」「これはお寿司と言って、麹で発酵させて食べるのさ。これはこの頃の一番のご馳走さ」「大ご馳走ね!私も食べて見たいわ」
男衆は神棚を掃除をしたり、氏神様の元旦祭の準備に走り回っています。清吉はお爺ちゃんに言いつけられ、神棚の掃除をしたり、お手入れした大工の三種の神器を、神棚に飾り付けをしています。男衆が一番楽しみにしている、濁酒づくりも始まりました。
さあ!大晦日になりました。お爺ちゃんが正座に座り、清吉は後継とて、初めてお爺ちゃんの隣の席に座りました。家族全員が揃うと、お爺ちゃんが立ち上がり、神棚の前で「祝詞」の準備を始めますと、家族全員が立ち上がり、お爺ちゃんの「祝詞」に頭を下げています。
そして皆んなが席に着き、大晦日の年取りが始まりました。神棚の前には、大工の三種の神器が飾られました。お父さんと私は、この日ばかりは神様です。濁酒や食べたかったお寿司など、沢山のご馳走が飾られ「お母さん!念願だったお寿司を、腹一杯食べて」「美味しい!こんな美味しい物が、飛鳥の時代にあったとは驚きね」お爺ちゃんは濁酒を飲み、顔が真っ赤です。木こり歌も出て宴は最高潮です。
暫くすると「清助!今から元旦祭の準備に行け。参道の雪は綺麗にかくのだぞ!」とお爺ちゃんに言われ、清助は神社に向かいました。
お父さんと私は、余りにも上手いご馳走と濁酒をいただき、顔は真っ赤です。「お父さん!美味しいかつたわ!清助さんには申し訳ないけれど、もう眠いわ!」と言ってお父さんと抱き合って寝ました。