墨壺 ( 12 ) 春祭り

まだ残雪が残る天生の里に春祭りの時が来ました。「お父さん!お祭りの準備が始まったわ。清助さんがお爺ちゃんに呼ばれているわ」「清助!お祭りの準備は、お前達若い衆でしろ。落ち度がない様にしっかりとしろよ。よいな」

「お母さん!このお祭りは五穀豊穣をお祈りすると同時に、飛騨の神社では別の意味があるんだ」「お父さん!その別の意味てなぁに」「飛騨のお祭りわね。タイムスリップする前の、令和の時代、飛騨の人口15万人弱の中に、450社という驚異的な数の神社があるの。人口比率から見れば驚くような数字だよ」

「お父さん!何故これだけ沢山の神社があるの?」「それは神社がある所は大地のパワーが出る、神聖な場所として大切に祭られているからだよ。このお祭りは五穀豊穣と共に、神々を敬い、大地のパワーが出続けることを祈願するという、大変重要な意味を持っているんだ」

「そうなの。知らなかったわ」「お母さん!タイムスリップして令和の時代から飛鳥の時代に来て、天生の里で眼を覚ました時何か感じなかった?」「お父さん!そういえば圧迫される様な凄いパワーを感じたわ。それが大地のパワー?」「そうだよ!この大地のパワーが、飛騨の素晴らしい自然を生み出し、飛騨の匠に知恵も与えてくれたのかも知れないね」「飛騨だって、本当に不思議な所ね。これから何が始まるのか楽しみだわ」

「お母さん!令和の時代、お祭りの行列を見たね」「はい!綺麗な屋台の引き揃えを見たわ」「このお祭りの行列にも大きな意味があるんだ。それは御神輿に御神体というパワーが鎮座されて、そのパワーを地内の大地に撒かれることなの。この大地のパワーが五穀豊穣を導いて下さるんだ」「お祭りの行列にそんな大きな意味があるって!本当に驚いたわ」

「お母さん!この神社の御神体知ってる?」「知らないわ?」「この神社の御神体は天生峠の向こうに見える籾糠山だよ」「え−?山が御神体なの」「そうだよ。飛騨一ノ宮にある水無神社の御神体は位山だよ」「山が御神体とは知らなかったわ」「お母さん!この籾糠山にはこんな伝説があるんだ」

お父さんは籾糠山の伝説を話してくれました。

法隆寺の釈迦三尊を彫った止利仏師など飛騨の匠が、天生峠の近くの山の中で木の人形を作りました。そして稲作を行われた時に、精米した籾と糠が風に飛んで積もった山が籾糠山という伝説があります。その後に、木の人形が埋葬されたのが、北側にある人形山と言われています。

「お父さんも知らなかったから、河合村の村史からいただいたの。有難うございました」

大工さんの三種の神器である私達は祭壇に祭られました。そして神事が始まりました。「お父さん!始まったわ!」「静かに!」とお父さんに注意されました。

そして無事、お祭りは終わりました。その後のお神酒の美味かったこと。酔っ払ってお父さんと抱かれて寝てしまいました

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