墨壺 ⑽ 筏流し

お正月が過ぎると、本格的に材木の切り出しが始まりました。「お父さん!この大きな材木はどの様にして運び出すの?」「お母さん!これから、この材木は、雪解け水を利用して、止利仏師が生まれた小鳥川から宮川、神通川を筏を組んで流すんだよ。令和の時代は、神通川には沢山のダムが出来て、筏を組んで流すことは出来ないけどね。道路、鉄道が整備されるまでは、この川が多くの物を運ぶ運搬手段だったのさ」「お父さん!どんな風に材木が筏を組んで流されるか?早く見たいわ!」「この筏を組んで流すことを筏流しと言うんだよ。この筏流しは大変危険を伴うので、筏師という専門の人がその作業を行うのさ」「お父さん!凄いことね」

「お母さん!ダムが出来る前までは、この小鳥川や宮川まで、鮭が上って来たんだよ」「令和の時代では考えられないことね。こんな山奥で海の魚をいただけるなんて、なんか不思議ね!」

「お母さん!飛騨は高山市一ノ宮町にある位山が、太平洋側と日本海側へ流れる分水嶺なのさ。太平洋へは飛騨川から木曽川へ、日本海へは宮川から神通川とそれぞれの川を流れて、材木は運ばれていったのさ」「お父さん!分水嶺いって、何か人生の分かれ道みたいね」「そうだね。太平洋の色は青色が少し薄いけれど、日本海の色は青色が濃いからね。太平洋に流れるか?日本海に流れるか?お母さんはどちらに流れて行きたい?」「私は両方の海を見たいわ!太平洋はアメリカまで続いているのでしょう」「お母さんは欲張りだなぁ」

こんな話をしている内に、筏流しが始まりました。

「清助。さあ!筏流しが始まるぞ。俺たちが伐採した材木を、筏に組んで流されるんだ。筏師の人が来たぞ。挨拶しな」「お頭の息子の清助と言いやすい。どうぞ宜しくお願いしやすい」と頭を下げました。

「棟梁!良い息子さんをお持ちですね」「お父さん!清助さんが褒められて、顔を真っ赤にしているわ」

「おい!清助。筏師の頭、源助さんにお願いしたから、この小鳥川を下り、角川の宮川との合流地点まで筏流しを経験させてもらえ。よいか!筏流しは大変危険だ!よく源助さんの指示に従い、決して邪魔をしない様にしろよ。よいな」

「お母さん!棟梁にお願いしたから、私達も清助さんと一緒に筏流しを経験しよう」「わぁ!嬉しいな」「令和の時代に天竜川下りをして以来よ」「お母さん!あの時の川下りとは全く違うよ。恐ろしいから覚悟しておいてね」「お父さん!余り脅さないでね:

「お母さん!この筏わね。小鳥川の水量が少ないから筏を組む数は少ないけれど、宮川入ると又筏を組み直し、又神通川に入ると、又もつと大きな筏に組み直して富山湾に運ぶんだよ」

雪解け水で激流となった小鳥川を、筏師が竿一本で筏を操って、巨石を避けながら、激流の中を下って行きます。そして無事、宮川との合流地点、角川に着きました。「お父さん!冷や冷やしたけれど楽しかったわ」「お母さん!筏流しで久しぶり歌が出来たよ」

   激流を  竿一本が  命綱

    迫る巨岩に  体震わせ

「お父さんは歌が上手いから与謝野鉄幹ですね」「ではお母さんは与謝野晶子だね」「では鉄ちゃん!」「晶ちゃん!と呼ぼうか」「やっぱり、お父さんがいいわ、」そんな話をし、帰りの道中、清助さんの懐の中でお父さんと仲良く抱き合って寝ました。

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ネットからいただきました。有難うございました。