50. 天職

最後に部材を接着する作業がしたいと望んだ障がい者の従業員のもとへ行きました。この女性の従業員は障がいの程度が重く多くの課題を抱えていました。このことから簡単な油圧機を使って行う部材の圧縮作業を望んだのだと思います。この従業員の安全を確保するために鏡とブザーが設置されていました。この鏡は隣で作業する従業員から見えるようになっており、何かあればブザーと共に直ぐに対応できる体制が整っていました。これは幹部社員が中心になって考えた「障がい者従業員の安全を確保するためのアイデア」でした。このような安全装置は各所に設置されていました。

工場を一巡し事務所に入りますと社長から声をかけられました。「まさかこんな日が来るとは夢にもみませんでした。本当に有難うございます」と涙ながらにお礼を言われたのです。今までのご苦労を察し私も涙が出て来ました。

企画部長からは「障がい者がこんな素晴らしい技量や才能を持っていたとは本当に驚きです。長い間障がい者の面倒を見て来ましたが、根本的に見る目を変えなければならないと気づきました。これも先生と出会えたお陰です」とお礼を言われました。誰も気づかなかった障がい者が持つ隠れた技量が活性化研修を通して発掘されたのです。

こんな中で一番嬉しかったのは障がい者のご両親に食事に誘われた時です。家に着き玄関に入りますと従業員が「先生!」と言って飛びついて来ました。ご両親も笑顔で迎えて下さいました。中に入ると襖や障子が破れ沢山の穴が空いています。「先生。これは子供が以前暴れて傷めたのです。暴れ出すとどうにもならず家内と2人で別の部屋で隠れていました。それが今は喜んで働きに行き全く暴れることは無くなりました。夢のようです。有難うございました」とお礼を言われたのです。

この従業員はダボ打ちを担当した方で社内では「ダボ打ち名人」とまで言われるようになりました。この名人という誇が明るい家庭に変えたのです。一日中ダボ打ちをしていても決して飽きることなく、笑顔で仕事をされていました。人生には天から与えられた「天職」があり、その天職を見つけることが出来るか?又その天職を見つけ出せる職場に出来るかによって、売上・利益にも大きく影響すると改めて知りました。