墨壺 タイムスリップ ⑴ 天生

お父さんの名前は「墨吉」私の名前は「しず」です。「しず」に変わる前は「ナツ」でしたが、私は声が大きく、いつもお父さんから「もう少し小さな声で!」と注意されていました。そして新しくお父さんが付けた名前が「しず」です。名前は「しず」になりましたが、名前通りに上手く行きません。私は大柄で少しふっくらとした体型で、お父さんは私とは反対に筋肉質で、小柄です。それでも仲の良いオシドリ夫婦です。

令和の時代は沢山の住宅が建ちますが、その多くは柱を断熱材などで隠してしまう方式で、折角の匠の技を生かすことが全く出来ません。そして過疎化が進み寺社仏閣を維持することも困難となりました。

こんな時代ですので、飛騨の匠と言われる棟梁は、みんな仕事が無いと頭を抱えています。これでは長年に亘り築かれて来た、飛騨の匠の技量が消滅するのではないかと本当に心配です。大工さんの三種の神器と言われた私達も、もう使われなくなる可能性もあります。こんな残念なことはありません。

地震が心配だと言って耐震に力を入れていますが、飛騨の匠が作った家は地震には本当に強いのです。この技量の高さをもっともっと知って欲しいと思います。

こんな心配をしていた時です。ある夜お父さんと抱き合って寝ていると不思議な夢を見ました。何とその夢の中で大きな大きな竜巻に巻き込まれました。そして気が付くと飛鳥時代にタイムスリップしていました。そこは飛騨河合村天生という山深い所でした。

「お父さん!凄い所にタイムスリップしましたね。令和のA Iの時代とは全く違う世界ですよ。でもお父さん!私達は1300年前の飛鳥の時代も棟梁にとって大切な大切な三種の神器ですよ。嬉しいな。万歳!」こんな会話を交わしながら棟梁の元で働くようになりました。

棟梁の頭の中を覗いてみますと、何と驚くことに奈良で見た法隆寺の伽藍が描かれています。棟梁はこんな大きな伽藍を飛騨古川杉崎に造ろうとしているのです!いやびっくりです。

令和の時代だったらA Iの力を借りて設計図を描くことは出来ましたが、設計から建築まで、全て人の力で行うとは本当に驚きです。棟梁にはどんな知恵が宿っているのでしょうか?さあ!これからが楽しみです。

  夢の中  目覚めて見れば  山奥の

   天に生まれし 棟梁出会いて

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墨壺です。