墨壺 ⑹ 神棚

ある朝目を覚ますと、お爺ちゃんが清助さんに話をしています。

「おい!清助。俺が毎日、朝晩神棚にお詣りしているだろう。この神棚には、この村を守って下さる氏神様と山の神様が祀られている。お前はこの家の後継だ。毎日お詣りし、これから神棚の榊とお水を変えるのはお前の仕事だ。お米と塩は毎月一日の朝に新しいのに替え、お供えしたお米はおかあに渡せ。塩は家の周りを浄めるために家の角に撒くのだ。特に南北のうち、北側が鬼門、南側が裏鬼門だ。そこは決して汚したり、物を置いたらして風道を妨げる様な事はしない様にしろ」

この頃、仏教は日本に伝わっていましたが、この仏教は貴族など一部の上層部の人々が、飛鳥の都などに大きなお寺を造り、子孫繁栄と涅槃浄土をお願いする形でした。このことから既存仏教という形はなく、一般住民は氏神様をお祀りしていました。

お爺ちゃんの話が続きます。「山に入って仕事をする時は、必ず山の神様に、木を切らせて下さいと許可を得るのだ。そして今日一日の安全を祈願するのだ。この山の神様の許可を得ずに木を切ると事故が起きるぞ!よく心して山の神にお願いしろ!良いな」「もう一つ木を痛めずに切るのだ。目立ての悪い切れない鋸で切ると、木は痛がり、えがんだり、時には裂けたりする。木の命をいただくのだ。有難うございますという感謝の心で慎重に仕事をしろ!このいただいた木は.神社や寺院など何百年と支えて下さるのだ。心して仕事をしろ!」

この時のお爺ちゃんの顔は、鬼の様なお顔でしたが、反対側から見ると子を諭す仏のお顔でした。

この神棚のお守りをするということは「家督をお前に継がせるぞ」という一種の儀式でした。この神棚は毎月一日には掃除し、榊とお米と塩を替えるのです。この神棚の掃除は後継者の仕事であり、女性は決して触れることは出来ませんでした。

山に入ると遠くに雪崩の音がします。「おい!清助。向こうの山で雪崩が起きた。どんな規模の雪崩か。おい!清助。源助と行って見てこい。大変な役やぞ。しっかりと見て報告しろ。よいか!」暫くすると清助と源助が帰り、雪崩の報告をしました。「よし!分かった。雪は深くなり、小降りになることを待つことにしました。「.さあ!今日は早いが、雪崩が危ない。これで帰るぞ。足元にはよく注意するんだ」皆んなで家に向かいました。

お父さんと私は棟梁の道具箱の中でお父さんと抱き合って休みました。

f:id:swnm8:20200401003821j:image